学習塾のInstagramを任されたものの、何を投稿すれば保護者に届くのか、生徒の写真をどこまで載せてよいのか、合格実績はどう書けば誤解を招かないのか、判断に迷っている担当者は少なくありません。教室の雰囲気を伝えたい気持ちはあっても、投稿の対象が未成年の生徒であるため、一般の店舗アカウントと同じ感覚で運用すると、あとから保護者の不安や問い合わせにつながるおそれがあります。
結論から言うと、学習塾のInstagramは「保護者が知りたいことに答える投稿の型」を先に決め、そのうえで「生徒が写る写真・氏名・合格実績・応募情報」の扱いを投稿前の点検表にしておく運用が安全です。写真や氏名は、塾が自由に載せてよい素材ではなく、本人と保護者の同意と、目的を伝える手順があって初めて使える素材として扱います。
この記事は、個別指導塾・集団塾・教室を運営し、Instagramで保護者や生徒に教室の様子を伝えたい事業者と担当者に向けて書いています。個人情報の扱いは個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)とQ&A、広告の表示は消費者庁の表示規制の概要、Instagramの仕組みはInstagram公式のTeen Accountsのページを、2026年10月13日に実際に開いて確認できた記載に限って使っています。Instagramのヘルプセンターの個別ページは今回の確認では内容を取得できなかったため、そこにしか書かれていない内容には触れていません。法令の適用は個別の事情で変わるため、判断に迷う場合は弁護士や行政書士などの専門家にご確認ください。文中の同意書や点検表の記入例は、手順を説明するための「仮の例」であり、実在の塾や生徒の話ではありません。
最初に決めること|誰に、何を伝えるアカウントかを分ける
学習塾のInstagramで最初に決めることは、投稿を読む相手を「入塾を検討する保護者」「在塾の保護者」「生徒本人」のどれに置くかであり、相手が変わると必要な情報も、気をつける個人情報の範囲も変わります。
学習塾のアカウントは、見る人が複数に分かれます。入塾を検討している保護者は、先生の人柄や教室の雰囲気、指導の進め方を知りたがります。すでに通わせている保護者は、行事の予定や連絡事項、教室での過ごし方が気になります。生徒本人は、先生の言葉や教室の空気感に親しみを持てるかどうかを見ています。同じ投稿ですべてを満たそうとすると、どの相手にも刺さらない内容になりがちです。
そこで、アカウントの主な読者を一つ決めます。多くの塾では、新しく教室を知ってもらう目的が強いため、主な読者は入塾を検討する保護者に置くのが現実的です。在塾の保護者への連絡は、Instagramではなく、塾が従来から使っている連絡手段に分けるほうが、誤配信や公開範囲の事故を避けられます。投稿は、公開された場所で誰でも見られるものだと考え、連絡事項や個別の学習状況は載せない前提で設計します。
次に、アカウントの役割を一文で書き出します。たとえば仮の例として「教室の雰囲気と先生の考え方を、入塾を検討する保護者に伝える」と決めれば、毎日の投稿で迷ったときに、その投稿が役割に合うかどうかで判断できます。役割が決まっていない状態で運用を始めると、生徒の様子を撮った写真ばかりが並び、個人情報の確認だけが担当者の負担として増えていきます。
保護者に届く投稿の型|教室の様子を伝える五つの型
保護者に届く投稿の型とは、保護者が入塾の判断で知りたい点(指導の進め方、先生の考え方、教室の環境、通塾の流れ、よくある質問)に一つずつ答える投稿の形であり、生徒の顔や名前を出さなくても作れます。
保護者が教室を選ぶときに知りたいのは、生徒の顔ではなく、どんな先生がどんな考え方で子どもに接するのか、安心して通わせられる環境かどうか、という点です。そのため、生徒を写さなくても伝えられる内容を中心に据えると、個人情報の負担を抑えながら、保護者の関心に応えられます。次の表は、五つの型と、それぞれで写してよいもの・避けたいものを整理したものです。
| 投稿の型 | 保護者が知りたいこと | 写しやすい素材 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| 先生の考え方の紹介 | どんな姿勢で子どもに接するか | 先生の手元、板書、先生本人(本人の同意を得たうえで) | 生徒の発言をそのまま引用しない |
| 指導の進め方の説明 | 授業や自習がどう進むか | 教材の表紙、ホワイトボードの図、無人の席 | 実際の答案や成績表を写さない |
| 教室の環境の案内 | 安全か、清潔か、通いやすいか | 入口、机の配置、掲示物、教室の外観 | 窓の外の景色や掲示物に個人名が写り込まないようにする |
| 通塾の流れの説明 | 入塾から通い始めるまでの手順 | 案内の図、パンフレットの一部 | 料金や条件は最新の内容と一致させる |
| 保護者からのよくある質問への回答 | 送迎、欠席の連絡、進路の相談など | 質問と回答をまとめた文字中心の画像 | 実際の保護者の質問を特定できる形で載せない |
表の五つの型は、いずれも生徒の顔や氏名を使わずに作れます。この型を軸にすると、写真の同意を取る対象が教職員に限られ、運用の負担がぐっと軽くなります。そのうえで、生徒が写る投稿は「特別な場合に、同意が取れた範囲で行うもの」として位置づけます。
各投稿の冒頭には、保護者が最初に知りたい答えを一文で置きます。たとえば「この投稿では、授業の進め方を図で説明します」といった一文です。保護者はスマートフォンで短時間に読むため、冒頭で何の投稿かが分かれば、続きを読むかどうかを判断できます。長く書く場合も、画像の中に文字を詰め込みすぎず、キャプション側に詳しい説明を書くと、読み取りやすくなります。
生徒が写る写真と氏名の扱い|撮る前に決める三つの区分
生徒が写る写真と氏名の扱いは、「個人を識別できる写真・動画」「個人が分かる文字情報(氏名・学校名・学年など)」「個人が分からない素材(手元・後ろ姿・無人の教室)」の三つに区分して、区分ごとに掲載の可否と同意の要否を決めます。
生徒の写真は、顔がはっきり写っていなくても、学校名の入った制服、名札、特徴のある持ち物、教室の掲示物と組み合わさって、誰なのかが分かることがあります。ここで大事なのは、「顔が写っているか」だけで判断せず、「見た人がその生徒を特定できるか」で判断することです。個人情報保護委員会のQ&Aでも、防犯カメラの画像について、特定の個人を識別することができる画像を取得する場合は個人情報を取り扱うことになる、という考え方が示されています(個人情報保護委員会 個人情報保護法に関するQ&AのQ1-13)。カメラの種類は異なりますが、「特定の個人を識別できる画像かどうか」が出発点になるという点は、教室で撮る写真を考えるときの目安になります。
三つの区分ごとの基本方針は、次のとおりです。
| 区分 | 具体例 | 基本方針 |
|---|---|---|
| 個人を識別できる写真・動画 | 顔が写る授業風景、名札や制服が見える写真、声が入る動画 | 原則として載せない。載せる場合は、本人と保護者の個別の同意を取り、範囲を限定する |
| 個人が分かる文字情報 | 氏名、学校名、学年、合格校名と組み合わせた紹介 | 原則として載せない。載せる場合は、書面で同意を得た項目だけにする |
| 個人が分からない素材 | 手元の鉛筆とノート、後ろ姿で髪型や制服が分からないもの、無人の教室 | 掲載してよいが、背景の掲示物や持ち物から特定されないかを確認する |
「後ろ姿なら大丈夫」と考えがちですが、髪型や体格、制服、持ち物で分かる場合もあります。そこで、後ろ姿を使うときは、同じ教室に通う生徒が見て「誰だか分かる」状態になっていないかを、撮影した担当者以外の職員が確認する運用にします。確認者を別の人にするのは、撮った本人は先入観で見落としやすいためです。
氏名や学校名も同様に、「名前を出さない」ことを基本線にすると運用が単純になります。生徒の名前を出さなくても、保護者に伝えたい教室の価値は十分に伝えられます。どうしても名前を出したい場面(表彰や行事の紹介など)が出てきたら、その都度の個別同意に切り替え、同意が取れていない生徒は、名前を出さない投稿に切り替える二段構えにしておくと、現場が迷いません。
個人情報の基本|利用目的を特定し、本人に伝える
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う事業者は利用目的をできる限り特定し、取得するときは本人に通知または公表する義務があり、Instagramへの掲載を予定しているなら、その目的を事前に具体的に伝えておく必要があります。
塾は、入塾の申込書や面談の記録を通じて、生徒と保護者の個人情報を取得しています。その情報を、Instagramに載せる目的で使うのであれば、「掲載する」という目的が伝わっている必要があります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、利用目的をできる限り特定しなければならないとし、不適切な例として「事業活動に用いるため」や「マーケティング活動に用いるため」といった書き方を挙げています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編))。「広報のため」という書き方も、同じ理由で抽象的すぎるため、避けたほうが安全です。
同じガイドラインには、本人から直接書面で個人情報を取得する場合、あらかじめ本人に利用目的を明示しなければならない、という考え方も示されています。事例として、申込書や契約書、アンケート、自社のホームページの入力画面から取得する場合が挙げられています。学習塾でいえば、入塾申込書や、体験授業の申込フォームがこれに近い場面です。そこで、申込書や申込フォームの近くに、Instagramへの掲載についての説明と同意の欄を置くと、取得の場面で目的を伝えられます。
また、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない、という考え方もガイドラインに示されています。入塾時に「指導と連絡のため」とだけ伝えた情報を、あとからInstagramの投稿に使うと、伝えた目的の範囲を超える可能性があります。入塾後に掲載したくなったときは、その時点で改めて目的を伝えて同意を取る手順を用意しておきます。
ここで書いた内容は、法令の考え方の一部を、塾のInstagram運用に当てはめて整理したものです。個人情報保護法の全体や、塾ごとの事情(保存している情報の種類、委託先の有無など)によって、必要な対応は変わります。自塾の個人情報の取扱方針(プライバシーポリシー)の見直しを含め、不安がある場合は専門家に確認してください。委託先に運用を任せる場合の確認点は、SNS運用代行と個人情報保護法の委託契約をまとめた記事も参考になります。
未成年の生徒と保護者の同意|同意書に入れる項目
未成年の生徒の個人情報は、本人が同意の結果を判断できる能力を持たない場合に親権者や法定代理人などから同意を得る必要があるとされており、塾のInstagramでは、生徒本人の意向を確認したうえで、保護者から書面で同意を得る運用が現実的です。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、同意したことによって生ずる結果について、未成年者などが判断できる能力を有していない場合は、親権者や法定代理人等から同意を得る必要がある、としています(ガイドライン(通則編)の「本人の同意」の項)。この考え方は、年齢で一律に線を引くものではなく、本人の判断能力に着目しています。したがって、塾としては「何歳以上なら生徒だけの同意でよい」と決めるのではなく、保護者の同意を基本にし、生徒本人にも意向を確かめる、という二重の確認にしておくと、判断が安定します。
個人情報保護委員会のQ&Aには、幼少児の個人情報を第三者提供するために必要な同意は、一般的に親権者から得る必要がある、という趣旨の記載もあります(Q&AのQ7-5)。このQ&Aは迷子の放送という場面を扱っており、Instagramへの掲載とは状況が異なりますが、子どもの情報について保護者の同意を重視するという方向は共通しています。
同意書は、あとで「聞いていない」とならないよう、何に同意したのかが分かる形にします。次の表は、同意書に入れる項目の仮の例です(項目は六つです)。
| 項目 | 書く内容の例 | この項目が必要な理由 |
|---|---|---|
| 利用目的 | 塾の教室の様子を、保護者に知らせるためにInstagramへ掲載する | 目的を具体的に特定して伝えるため |
| 掲載する素材 | 写真、動画、氏名、学年のうち、どれを載せるか | 同意の範囲を素材ごとに分けるため |
| 掲載する場所 | 塾の公式Instagramの投稿、ストーリーズ、リールなど | 公開される場所を本人に分かるようにするため |
| 同意しない場合の扱い | 同意しなくても入塾や指導に影響しない旨 | 同意が任意であることを明確にするため |
| 同意の取り消し | いつでも連絡窓口に申し出れば、以後の掲載を止める旨 | あとから意向が変わる場合に備えるため |
| 連絡窓口 | 担当者の氏名ではなく、塾の問い合わせ窓口 | 取り消しや質問の受付先を明確にするため |
表のとおり、同意書は「写真を載せてよいか」という一問だけでは足りません。写真は良いが氏名は嫌だ、という保護者も、動画は避けたいという保護者もいるため、素材ごとに選べる形にします。また、同意しなかった生徒が不利益を受けない運用にすることも大切です。同意の有無が、教室内で生徒や保護者に見える形で扱われないよう、同意の管理表は担当者だけが見られる場所に保管します。
同意書の様式は、塾ごとに法的な確認が必要です。ここで示した項目は、運用の骨組みを考えるための仮の例であり、そのまま使えば足りるという意味ではありません。完成した様式は、専門家に目を通してもらうと安心です。
合格実績の表示|景品表示法の考え方と、数え方の決め方
合格実績の表示は、景品表示法の「優良誤認表示」にあたらないよう、数え方の基準を先に決め、表示した内容の裏付けとなる資料を保管しておくことが、広告として使う前提になります。
消費者庁の「表示規制の概要」のページは、優良誤認表示を、商品・サービスの品質、規格その他の内容についての不当表示として説明し、内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示を例に挙げています。また、消費者庁は表示の裏付けとなる資料の提出を事業者に求めることができ、事業者が資料を提出しない場合や、提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は、不当表示とみなされる、という趣旨の説明もあります(消費者庁 表示規制の概要)。
この考え方を合格実績に当てはめると、「合格者数」と書く以上、その数を、いつの入試について、誰を、どういう基準で数えたのかを説明できる必要があります。たとえば、短期間だけ在籍した生徒や、模試だけを受けた生徒を、実績に含めると、塾の指導の成果として受け取られる内容と、実際の指導との間にずれが生まれます。このずれを避けるため、数え方の基準を、投稿を作る前に文書にしておきます。
| 決めておく項目 | 決め方の例 | 投稿での書き方 |
|---|---|---|
| 対象とする在籍の範囲 | どの講座にどれだけの期間通った生徒を数えるか | 基準を併記し、基準に合わない人数を混ぜない |
| 対象とする入試 | どの年度の、どの学校種の入試か | 年度と入試の種類を明記する |
| 合格の定義 | 正式な合格か、進学先として決定したものか | 用語を統一し、言い換えで強く見せない |
| 数字の根拠資料 | 合格通知の確認方法、保護者への確認記録 | 資料は保管し、広告担当が確認できる場所に置く |
| 個人の特定 | 氏名や学校名と組み合わせるか | 本人と保護者の個別の同意がない限り出さない |
数字そのものを大きく見せる工夫より、基準が明確であることのほうが、保護者の信頼につながります。投稿に数値を書くときは、架空の数字を使うことはせず、自塾で実際に確認できた数字だけを使います。確認できない数字は、表示から外します。数字を使わずに、指導の進め方や、教室で大切にしている考え方を伝える投稿のほうが、継続して運用しやすい面もあります。
合格実績に限らず、成績の向上や、短期間での変化を示す投稿も、同じ考え方で扱います。結果を言い切る断定の表現は避け、実際に提供している指導の内容と、教室の方針を伝えるにとどめます。表示全般の考え方は、企業SNSのステマ規制対応と社内チェックの作り方をまとめた記事も参考にしてください。
合格実績の数え方や、投稿前の確認の体制づくりに不安がある場合は、下のリンクからご相談ください。
体験授業・入塾キャンペーンの案内と、応募情報の扱い
体験授業や入塾キャンペーンをInstagramで案内するときは、条件や期間を実際の内容と一致させ、申込で取得した氏名や連絡先には、取得の場面で利用目的を明示することが必要です。
体験授業の案内は、保護者にとって行動につながりやすい投稿です。一方で、料金や特典の条件は、実際の取引条件と食い違うと、保護者に誤解を与えます。消費者庁の説明では、価格その他取引条件についての不当表示を有利誤認表示として整理しています(消費者庁 表示規制の概要)。体験授業の料金や、入塾金の扱いを投稿に書くときは、適用の条件と期間を併記し、条件が変わったら投稿も更新します。
申込のフォームやダイレクトメッセージで氏名や連絡先を集めるときは、取得の場面で利用目的を示します。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、自社が主催するキャンペーンの参加申込のために、ホームページの入力画面に入力された個人情報を直接取得する場合を、あらかじめ利用目的を明示すべき事例として挙げています(ガイドライン(通則編))。体験授業の申込フォームでも、同じ考え方で、フォームの画面に利用目的を書いておきます。
インスタのダイレクトメッセージで申込を受ける運用は、保護者の連絡先や生徒の情報が、アプリの中に流れ込みやすくなります。個人情報の管理を考えると、ダイレクトメッセージでは申込フォームへの案内にとどめ、フォーム側で情報を受ける形のほうが、管理しやすくなります。応募データの保管や削除の実務は、SNSキャンペーンの個人情報保護法対応をまとめた記事で整理しています。景品や特典の上限額が絡む場合は、SNSプレゼントキャンペーンと景品表示法をまとめた記事もあわせて確認してください。
Instagramの仕組みと10代の利用者|DM・タグ・コメントへの対応
Instagram公式は、10代のアカウントに対してメッセージを受け取れる相手やタグ付けできる相手を制限する保護を設けていると説明しており、塾のアカウントから生徒に連絡する運用は、届かない場合がある前提で設計する必要があります。
Instagram公式のTeen Accountsのページ(2026年10月13日確認、英語)には、10代のアカウントに適用される保護が説明されています。内容として、メッセージは、フォローしている人やすでにつながりのある人からしか受け取れない設定になっていること、タグ付けやメンションができるのは、本人がフォローしている人だけであること、16歳未満の場合は、保護を緩める設定の変更に保護者の許可が必要であること、が書かれています。ただし、この記載は発表時点のもので、仕様は更新されるため、運用前に公式の最新の案内を確認してください。
この仕組みから、塾の運用について、三つの考え方が導けます。一つ目は、塾のアカウントから生徒に直接ダイレクトメッセージを送る運用は、届かない場合があり、連絡手段として頼りにしないことです。二つ目は、生徒のアカウントをタグ付けした投稿を前提にしないことです。タグ付けが制限されている場合があるうえ、タグ付けをすると、生徒の個人のアカウントと塾の紐づきが公開されます。三つ目は、生徒本人の私的なアカウントとの個別のやり取りを、塾の公式な業務として行わないことです。
コメント欄の運用も、あらかじめ決めておきます。生徒や保護者がコメントで質問してきた場合に、個別の指導や成績に関する回答を、公開のコメント欄で行うのは避けます。一般的な質問には公開で短く答え、個別の相談は、塾の電話や問い合わせフォームなど、本人確認ができる連絡手段に誘導します。返信の基準、担当、エスカレーションの考え方は、企業SNSのコメント・DM対応ルールの作り方をまとめた記事に整理しています。
また、Teen Accountsのページには、不快な言葉をコメントやメッセージのリクエストから除外する機能(Hidden Words)も触れられています。ただし、この機能は利用者側の設定として説明されており、塾のアカウントの投稿に付くコメントの管理とは別のものです。塾のアカウント側で不適切なコメントを見つけた場合の対応は、炎上や誹謗中傷に備える社内の手順に沿って、記録して対応します。企業SNSの炎上を防ぐ対策と、万が一の対応をまとめた記事も参考になります。
掲載後の運用|削除の依頼、退塾、卒業のときの扱い
掲載後の運用とは、同意を取り消したい申し出、退塾や卒業、投稿の誤りの発見といった場面で、投稿をどう止め、どう直すかを事前に決めておくことで、保護者の不安を長引かせずに対応できます。
同意を得て載せた投稿でも、あとから「やはり載せないでほしい」という申し出が来ることがあります。申し出を受ける窓口と、対応の手順を、掲載前に決めておきます。手順の骨組みは、受付の記録、対象の投稿の特定、非公開または削除の実施、完了の連絡、再発防止の記録、の順です。担当者個人のDMで受けるのではなく、塾の問い合わせ窓口で受けると、記録が残り、担当者が交代しても対応が続きます。
投稿を削除しても、すでに誰かが保存した画像や、スクリーンショットが残る可能性があります。そのため、同意書の段階で、「公開した内容は、塾の側で完全には回収できない場合がある」ことを伝えておくと、保護者の理解が得られやすくなります。これは、個人情報の法令上の扱いというより、保護者に誤解のない説明をするための実務上の配慮です。
退塾や卒業のときの扱いも、決めておきます。たとえば、退塾後は、新たに生徒が写る投稿を作らないこと、過去の投稿については、同意の範囲と取り消しの申し出に従って扱うこと、などを、同意書に書いておきます。法的な保存や削除の義務の細かい扱いは、塾が保有する情報の種類によって異なるため、ここでは断定を避けます。専門家に確認する項目として、社内の点検表に入れておいてください。
投稿に誤りを見つけた場合の手順も同様です。誤りが事実の記載(日程、料金、条件)であれば、すぐに修正または削除し、必要に応じて保護者に補足の連絡をします。個人が特定できる素材を誤って載せた場合は、まず非公開にしてから、経緯を記録し、該当の生徒と保護者に連絡します。事後の再発防止として、投稿前の確認者を増やすなど、点検表の手順を見直します。
投稿前の点検表|同意・写り込み・表示を確かめる記入例
投稿前の点検表とは、同意の有無、写り込み、実績や条件の表示、公式情報の確認を投稿の公開前に一つずつ確かめる社内の様式であり、根拠となる公式ページを欄ごとに記録しておく点が、この記事の整理の特徴です。
これまでの内容を、一枚の点検表にまとめます。担当者が一人で運用していても、投稿ごとにこの表を埋めてから公開する習慣をつけると、確認漏れを減らせます。次の表の各行には、確認の根拠となる公式の資料を併記しています(行は七つです)。
| 確認する点 | 確認の内容 | 根拠となる公式ページ |
|---|---|---|
| 生徒が識別できるか | 顔、名札、制服、持ち物、掲示物から特定できないか | 個人情報保護委員会 Q&A |
| 利用目的を伝えているか | Instagramへの掲載が、申込書や同意書の目的に含まれているか | ガイドライン(通則編) |
| 保護者の同意があるか | 素材ごと(写真、動画、氏名)の同意が、管理表で確認できるか | ガイドライン(通則編) |
| 実績の数え方が説明できるか | 基準の文書と根拠資料があるか | 消費者庁 表示規制の概要 |
| 料金・特典の条件が一致しているか | 期間と適用条件が、実際の取引と同じか | 消費者庁 表示規制の概要 |
| 申込の入力画面に目的を書いたか | フォームに利用目的の説明があるか | ガイドライン(通則編) |
| Instagramの仕様を前提にしていないか | DMやタグ付けが届く前提の運用になっていないか | Instagram Teen Accounts |
次に、この点検表の記入例を、仮の例で示します。投稿の内容は、「冬期講習の案内を、教室の写真と一緒に載せる」という想定です。
仮の例の記入は、次のように進みます。まず、写真には机と椅子、ホワイトボードだけが写っていて、生徒は写っていないため、「識別できるか」の欄は「識別できる要素なし」と書きます。次に、ホワイトボードの文字を確認すると、前の授業の生徒名が消し残されていたため、撮り直しにします。この種の写り込みは、撮影した本人が見落としやすいので、確認者を別の職員にしています。続いて、冬期講習の料金は、募集要項と同じ内容かを照合し、期間の記載が古い版のままだったため、最新の版に直します。最後に、案内の末尾に申込フォームへのリンクを置き、フォームの画面に利用目的が書かれていることを確かめて、公開します。
この記入例のように、点検表は、公開を止めるための関門ではなく、気づきを記録するための道具です。確認の過程で見つかった修正点を、記録として残すと、次の担当者が同じ失敗を避けられます。投稿の予定を前もって組みたい場合は、SNSコンテンツカレンダーの作り方をまとめた記事にある計画の立て方と組み合わせると、確認の時間を投稿の工程に組み込めます。
運用体制と外部への相談|担当者を一人にしない
学習塾のInstagram運用体制とは、投稿を作る人、確認する人、同意を管理する人、アカウントの権限を持つ人を分け、担当者が代わっても運用が続くようにする仕組みです。
小規模な塾では、一人の講師が投稿の作成から確認までを担いがちです。しかし、写り込みの見落としや、同意の確認漏れは、一人で作業するほど起こりやすくなります。そこで、少なくとも「作る人」と「確認する人」を分けます。人手が足りない場合は、同意の管理表と点検表を共有しておき、公開前に別の職員が点検表を見るだけでも、見落としを減らせます。
アカウントの権限管理も、運用体制の一部です。講師が個人のスマートフォンでログインし、退職後もログイン状態が残ってしまうと、塾が管理できないアカウントになります。権限の付与、担当交代時の引き継ぎ、乗っ取りへの備えは、SNSアカウントの権限管理と引き継ぎ手順をまとめた記事で整理しています。
教育・スクール業界全体のSNS集客の考え方や、投稿の方向性を知りたい場合は、教育・スクール業界のSNS集客を扱った記事もあります。写真や音楽の権利関係を確認する手順は、企業SNS投稿の著作権・肖像権チェック手順をまとめた記事が参考になります。
同意書の様式、投稿前の点検表、運用の分担を、自塾の事情に合わせて設計することに不安がある場合は、外部に相談する方法もあります。株式会社S.Lineでは、企業のSNS運用について、運用の体制づくりや、委託先との役割分担のご相談を受け付けています。このページ末尾のリンクからご相談いただけます。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 生徒の顔が写っていない写真なら、同意なしで載せても問題ありませんか。
- 顔が写っていなくても、制服、名札、持ち物、髪型、掲示物の組み合わせで、特定できる場合があります。判断の基準は、顔の有無ではなく、見た人がその生徒だと分かるかどうかです。個人情報保護委員会のQ&Aでも、特定の個人を識別できる画像かどうかが出発点として示されています(Q&A)。迷う場合は載せない判断にするのが無難です。
- Q2. 生徒本人が「載せてもいい」と言っているときは、保護者の同意は不要ですか。
- 個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、同意の結果を判断できる能力を持たない未成年者などの場合は、親権者や法定代理人等から同意を得る必要があるとしています(ガイドライン)。年齢で一律には決まらないため、保護者の同意を基本にし、本人の意向も確かめる二重の確認が安全です。
- Q3. 入塾時の申込書に、Instagramの掲載についての同意の欄を入れておけば足りますか。
- 入塾時に取得する場面で目的を示すことは有効です。ただし、掲載する素材(写真、動画、氏名)や場所を選べるようにし、同意しなくても入塾に影響しないことを明記しておくと、同意の内容が明確になります。様式は専門家に確認すると安心です。
- Q4. 合格実績を載せたいのですが、人数を書かず「多数」と書くのはどうですか。
- 数字を書かなくても、実際より優れていると受け取られる表示は、景品表示法の優良誤認表示に問われる可能性があります。消費者庁の説明では、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料が必要とされています(表示規制の概要)。曖昧な言葉に頼らず、基準と根拠を説明できる表現を選んでください。
- Q5. 生徒のアカウントをタグ付けして、授業の様子を紹介してもよいですか。
- おすすめしません。Instagram公式のTeen Accountsのページには、10代のアカウントのタグ付けやメンションができるのは、本人がフォローしている人だけという設定が説明されています(Instagram Teen Accounts)。届かない場合があるうえ、生徒の個人アカウントと塾が結びつくため、同意の確認が複雑になります。
- Q6. 保護者から「投稿を消してほしい」と言われたら、どう対応しますか。
- 受付を塾の問い合わせ窓口に集め、対象の投稿を特定して非公開または削除し、完了を連絡します。記録を残し、同意の管理表も更新します。法的な義務の細かい範囲は、保有している情報の種類で変わるため、専門家に確認してください。
- Q7. 運用を外部の会社に任せる場合、何を確認すればよいですか。
- 写真や氏名の扱い、同意の確認の担当、投稿前の確認者、アカウントの権限をどこが持つかを、契約や運用の取り決めで確認します。委託の際の個人情報の安全管理は、SNS運用代行と個人情報保護法の記事でも整理しています。
まとめ|保護者の疑問に答える型と、生徒の情報を守る手順を両立させる
学習塾のInstagramは、保護者が知りたいこと(先生の考え方、指導の進め方、教室の環境、通塾の流れ、よくある質問)に答える投稿の型を軸にすると、生徒の顔や氏名を出さずに運用できます。そのうえで、生徒が写る投稿や、合格実績、体験授業の案内は、個人情報と表示の両面から、事前の点検が必要です。
個人情報については、利用目的を具体的に特定し、取得の場面で本人に伝え、未成年の生徒は保護者の同意を基本にします。表示については、合格実績の数え方を文書にして根拠資料を保管し、料金や特典の条件を実際の取引と一致させます。Instagramの仕様については、10代のアカウントに対するメッセージやタグ付けの制限を踏まえ、届く前提の運用を避けます。
最初の一歩としては、同意書の項目を見直し、投稿前の点検表を一枚作ることから始めるのが現実的です。完成した様式や運用の体制に不安がある場合は、専門家に確認しながら進めてください。運用の体制づくりについては、下のリンクからもご相談いただけます。
