インフルエンサーにPR投稿を依頼するとき、契約書や発注書に何を書いておけばよいかは、投稿が公開されてから問題になることが多い論点です。結論から書くと、決めておくべき項目は大きく九つに分かれます。業務内容、投稿回数と期限、PR表示、投稿内容の事前確認の範囲、二次利用(広告転用)の範囲と期間、報酬と支払期日、中止や修正の扱い、炎上などの問題が起きたときの対応、個人情報と秘密情報の取り扱いです。この記事では、その九つを一覧表にしたうえで、項目ごとに「何を決めるか」「どう書くか」を、仮の記入例つきで整理します。
費用の相場や依頼先の選び方は別の記事で扱っているため、ここでは契約・発注書の項目だけに絞ります。単価や費用対効果の考え方はインフルエンサーマーケティングの費用と効果の見方に、PR表記の要否や社内チェックの作り方は企業SNSのステマ規制対応の記事にまとめています。本記事は、それらで決めた方針を「発注書の文言にどう落とすか」を扱います。
なお、本記事の説明と条文例は一般的な整理であり、法的助言ではありません。個別の契約は、取引の実態や相手の事業形態によって必要な内容が変わります。実際に使う契約書や発注書は、顧問弁護士など専門家の確認を受けてください。法令や公的機関の記述に触れる段落には、同じ段落に一次ページへのリンクを置いています。
PR依頼の契約は「決めていないこと」が後から争点になる
インフルエンサーへのPR依頼の契約とは、企業が個人の発信者に自社の商品やサービスの投稿を有償で依頼するとき、依頼する内容・表示の仕方・使える範囲・支払いの条件を事前に文書で合意することを指します。
PR依頼で後から揉めやすいのは、悪意のある行為よりも「決めていなかったこと」です。たとえば、投稿を広告として配信してよいのか、投稿の公開後どのくらいの期間は削除しないでほしいのか、企業が文面を直してほしいと言ったときにどこまで応じる義務があるのか、といった点です。どれも、依頼時には当たり前に思えて話題にならず、問題が起きてから初めて認識のずれが表に出ます。
企業側にとって特に重いのは、投稿の表現が公開後に社内の確認基準と合わないとわかった場面です。修正を依頼できるのか、削除を依頼できるのか、その費用は誰が持つのかが決まっていないと、広報や法務が個別に交渉することになります。契約や発注書は、そうした個別交渉を減らし、社内の担当者が同じ基準で動けるようにするための道具です。
一方で、条項を細かくしすぎると、依頼を受ける側が内容を読み切れず、合意の実質が薄くなります。重要な項目を絞って、読み手が一度で理解できる長さに収めることも、契約の品質の一部です。次の節以降では、重要度の高い項目から順に、書き方の考え方を示します。
契約書・発注書・メールのどれで残すかを先に決める
取引条件の記録方法とは、契約書、発注書、メールやメッセージのいずれで合意内容を残すかの選択であり、相手が個人の発信者の場合は、書面か電磁的方法のどちらかで条件を示す必要が生じるケースがあります。
フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、業務委託の相手方である事業者で従業員を使用しないものを「特定受託事業者」とし、発注する事業者に、取引条件を書面または電磁的方法で明示することを求めています。公正取引委員会のQ&Aには、電磁的方法として、SNSやウェブサイト、アプリケーションのメッセージ機能で送信する方法も含まれるという趣旨の記載があります(公正取引委員会 フリーランス法のページ、同Q&A)。口頭だけで済ませない、という点が実務上の出発点になります。
ただし、PR依頼の相手であるインフルエンサーが、法令上この「特定受託事業者」に当たるかどうかは、個人か法人か、従業員を使用しているか、事業として受託しているかといった条件で変わります。個人の発信者だから当然に該当する、あるいは該当しない、と決めつけず、依頼のたびに相手の事業形態を確認し、記録に残すのが安全な運用です。事務所やプロダクションを通す場合は、契約の当事者が誰になるかも先に確認します。
形式の選び方は、依頼の規模で整理できます。単発で小規模なら、発注書と承諾メールの組み合わせで足りる場合が多く、継続的に複数回を依頼したり、二次利用や独占条件を含めたりする場合は、基本契約書に個別の発注書を付ける形が扱いやすくなります。どの形式でも、後から参照できる形で保存し、社内の担当者が変わっても同じ文書にたどり着けるよう、保管場所を決めておきます。
運用代行会社に依頼する場合の契約の確認項目は、Instagram運用代行の契約前チェックリストで整理しています。インフルエンサーへの直接依頼と、代行会社経由の依頼とでは契約の当事者と責任の所在が変わるため、どちらの形なのかを最初に決めてから、項目を選んでください。
発注書に入れる項目を9項目の一覧で確認する
PR依頼の発注書に入れる項目は、業務の内容、期限、表示、確認、利用範囲、お金、中止、問題対応、情報管理の9項目に整理でき、各項目に「誰が・いつまでに・どの範囲で」を書くことが基本です。
次の表は、本記事で扱う9項目を一覧にしたものです。左から順に、決めること、発注書での書き方のポイント、詳しく扱う節の順に並べています。まずここで全体を確認し、自社に不足している項目がどれかを見つけてください。
| 項目 | 決めること | 書き方のポイント | 詳しい節 |
|---|---|---|---|
| 1 業務内容 | 投稿するもの、媒体、紹介する商品・サービスの範囲 | 成果物を数えられる形で書く | 業務内容と投稿回数 |
| 2 投稿回数・期限 | 投稿の回数、公開日、素材の提出日 | 日付で書き、遅れたときの連絡先も入れる | 業務内容と投稿回数 |
| 3 PR表示 | 表示の文言、位置、動画での出し方 | 文言と位置を発注書に書く | PR表示 |
| 4 事前確認 | 企業が確認する範囲、修正依頼の回数と期限 | 確認の対象と、確認しない部分を分ける | 事前確認 |
| 5 二次利用 | 広告転用の媒体、期間、改変の可否、終了後の扱い | 媒体・期間・費用を一組で書く | 二次利用 |
| 6 報酬・支払期日 | 金額、含まれる範囲、支払日、振込手数料 | 支払日を具体的な日付ルールで書く | 報酬と支払期日 |
| 7 中止・修正 | 依頼の中止、投稿の修正・削除、その費用負担 | 発生条件と精算方法を対にする | 中止・修正 |
| 8 問題発生時 | 連絡窓口、一時非表示、訂正の判断者 | 連絡の経路と時間帯を書く | 炎上時の対応 |
| 9 個人情報・秘密 | 渡す情報、預かる情報、秘密にする情報 | 渡す情報を最小にし、返却・廃棄を書く | 個人情報と秘密情報 |
この9項目のうち、契約書の本文に書くべきものと、発注書の別紙に書けば足りるものがあります。法的な意味を持つ規定(二次利用の範囲、秘密保持、解除など)は契約書本体に置き、案件ごとに変わる内容(商品名、投稿日、報酬額)は発注書に置くと、継続的な依頼で書類を使い回しやすくなります。
業務内容と投稿回数・期限は、成果物を数えられる形で書く
業務内容の記載とは、依頼する成果物の種類・媒体・数量・提出日を、第三者が読んでも同じ内容を想像できる粒度で書くことで、「PR投稿をお願いします」の一行では成果物の範囲が確定しません。
業務内容は、成果物の単位で書きます。たとえば「Instagramのフィード投稿」「リール動画」「ストーリーズ」は、それぞれ制作の手間も見せ方も違うため、別の行にします。投稿の本数、動画の長さの目安、紹介する商品名、入れてほしい情報(商品名、購入先、キャンペーン名)と、入れてはいけない情報(効果の断定、他社との比較)をあわせて書くと、事前確認の場面で迷いが減ります。
期限は「素材の提出日」「企業の確認期限」「公開日」の三つを分けて書くと整理できます。公開日だけを決めて途中の期限を決めないと、企業側の確認が遅れたときに、誰の遅れなのかが曖昧になります。企業の確認が遅れた場合は公開日をずらしてよい、といった調整のルールも、あわせて入れておくと安心です。
次の表は、発注書の業務内容の欄の書き方を、仮の例で示したものです。商品や会社は架空で、金額や日付は一例です。
| 欄 | 仮の記入例 | 書く理由 |
|---|---|---|
| 依頼する成果物 | Instagramのリール動画1本とストーリーズ3枚(A社の新作ボトルを紹介) | 種類と数量で成果物を確定させる |
| 入れる情報 | 商品名、購入先ページ、キャンペーン名 | 確認の基準を先に共有する |
| 入れない情報 | 効果の断定、他社製品との比較、価格の最安表現 | 公開後の修正を減らす |
| 素材の提出日 | 公開の数日前(日数は一例です。) | 企業が確認する時間を確保する |
| 企業の確認期限 | 素材提出の翌営業日の夕方まで | 確認の遅れの責任を明確にする |
| 公開日・時間帯 | 発注書に記載した日付の指定時間帯 | 広告配信など他の施策との調整 |
この表の「入れない情報」は、企業の希望を細かく列挙するための欄ではありません。公開後に問題になりやすい表現を、あらかじめ共有しておくための欄です。効果を断定する表現は、商品の種類によっては別の法令の規制も関係します。薬機法に関わる商品を扱う場合の確認手順は企業SNS投稿の薬機法チェック手順が参考になります。
PR表示は、文言・位置・動画での出し方を発注書に書く
PR表示の取り決めとは、有償で依頼した投稿が広告であると読者に分かるよう、表示の文言・位置・動画での見せ方を、依頼の段階で発注書に書いておくことです。
消費者庁は、広告であるのに広告であることを隠す表示を、令和5年10月1日から景品表示法違反の対象としています。同庁のページには、企業がインフルエンサーなどの第三者に依頼・指示するものも対象に含まれると書かれています(消費者庁 ステルスマーケティング規制のページ)。同じページでは、規制の対象は事業者であり、インフルエンサー自身は対象ではないとされています。つまり、表示を整える責任は依頼する企業側に置かれます。
運用基準では、明瞭な表示の例として「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言や、「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文章が挙げられています。一方、これらの文言を使っていても、表示内容全体から事業者の表示であることが明瞭と認められない場合があると注記されています。不明瞭な例としては、表示が部分的であること、投稿の末尾にあること、周囲より小さいこと、薄い色であること、大量のハッシュタグに埋もれること、動画で認識できないほど短い時間しか出さないことなどが示されています(消費者庁 運用基準(PDF))。
この内容から、発注書に書くべきことが見えてきます。表示の文言(たとえば「PR」と「A社から商品の提供を受けて投稿しています」の併記)、位置(投稿の冒頭など読者の目に入る場所)、動画の場合の出し方(冒頭で一定時間見えるテロップと、概要欄の記載の併用)、ハッシュタグの置き場所の四つです。「PR表示を付けること」とだけ書くのではなく、「冒頭に、周囲の文字より小さくならない大きさで」と具体化します。
さらに、依頼を受ける側が表示を外したり、位置を変えたりしたときの扱いも決めておきます。公開後に表示が不足していると分かった場合に、企業が修正を依頼でき、依頼を受けた側は期限内に対応する、という流れを書いておけば、広報担当が公開後に慌てて交渉する場面を減らせます。社内のチェックリストの作り方は、先に挙げたステマ規制対応の記事を参照してください。
投稿内容の事前確認は、確認する範囲とそうでない範囲を分ける
投稿内容の事前確認とは、公開前に企業が投稿案をチェックする手続きであり、確認の範囲を事実関係と法令対応に絞るほど、投稿者の自主的な表現を残しやすくなります。
事前確認は、企業にとって必要な手続きですが、確認の範囲を広げるほど、企業が表示内容の決定に関わる度合いも強まります。運用基準は、企業が第三者に特定の内容の表示を明示的に依頼・指示していない場合でも、企業と第三者の間で「第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性」があれば、企業が表示内容の決定に関与した表示とされ、企業の表示になると説明しています。判断では、具体的なやり取りの内容、対価の内容、関係の継続性などが総合的に考慮されます(消費者庁 運用基準(PDF))。
ここで押さえたいのは、有償の依頼では、事前確認の範囲を狭めても広げても、PR表示が不要になるわけではないということです。消費者庁のQ&Aでは、報酬を受けて依頼された投稿については、事業者の表示であることが明瞭となる記載をすることが適当とされています(消費者庁 ステルスマーケティングに関するQ&A)。事前確認の範囲は、表示の要否ではなく、表現の品質と安全のために決める項目だと整理すると、社内で議論しやすくなります。
確認の範囲は、次の表のように分けます。企業が修正を依頼する対象と、投稿者の判断に任せる対象を切り分けておくと、確認の場面で「どこまで言ってよいか」を迷いません。
| 区分 | 確認の対象 | 企業の対応 |
|---|---|---|
| 事実関係 | 商品名、価格、販売期間、機能の説明が公式情報と合っているか | 誤りは修正を依頼する |
| 法令・表示 | PR表示の有無と位置、効果の断定表現、比較広告に当たる表現 | 修正を依頼する |
| 権利・人物 | 他人の写真、楽曲、商標、第三者の顔の映り込み | 差し替えを依頼する |
| ブランドの安全 | 他者を誹謗する表現、不適切な背景や投稿の並び | 修正を相談する |
| 表現の味付け | 構成、言い回し、撮り方、使うBGMの選択 | 原則として投稿者に任せる |
修正を依頼できる回数と期限も、発注書に書いておきます。「修正は2回まで、企業の指摘から翌営業日までに反映する」のような形です(回数と日数は一例です。)。修正の回数を決めないと、確認が終わらず公開日が延びたり、投稿者の負担が増えたりして、関係が悪化します。確認の根拠となる社内基準は、企業SNS投稿の著作権・肖像権チェック手順のような確認表を作っておくと、指摘を一貫させやすくなります。
二次利用(広告転用)は、媒体・期間・改変・費用を一組で決める
二次利用とは、インフルエンサーが制作した投稿や動画を、企業が自社サイト、広告配信、店頭の販促物などに転用することで、利用できる媒体・期間・改変の可否・費用をセットで決めておく必要があります。
二次利用は、PR依頼の契約で最も認識がずれやすい項目です。企業側は「投稿した内容なので自社の広告に使えるはず」と考えがちですが、投稿者が撮影・制作した動画や写真には投稿者の権利が関わります。公正取引委員会のQ&Aには、業務委託の際に、権利の譲渡や許諾の範囲を「給付の内容」の一部として明確に記載し、その権利の対価を報酬に含めて考える必要があるという趣旨の記載があります(公正取引委員会 フリーランス法Q&A)。二次利用を前提にするなら、その分の対価を見込んで報酬を設計することになります。
決める項目は、利用する媒体、期間、改変の可否、費用、終了後の扱いの五つです。次の表は、二次利用の欄を仮の例で埋めたものです。数字と期間は一例であり、実際の条件は案件ごとに協議して決めます。
| 決める点 | 仮の記入例 | 書き漏らしたときに起きること |
|---|---|---|
| 利用する媒体 | A社の公式サイトと公式アカウントでの再掲、A社が指定するSNS広告配信 | 想定外の媒体(店頭の大型ポスター等)で使われる |
| 利用する期間 | 公開日から半年間(期間は一例です。) | いつまで使えるのか分からず、削除の依頼が交渉になる |
| 改変の可否 | トリミング、字幕の追加は可。内容の編集や別素材との合成は事前に承諾を得る | 投稿者の意図と異なる形で使われる |
| 追加費用 | 期間を延長する場合は別途協議 | 延長の費用が後から争点になる |
| 終了後の扱い | 期間終了後は新規の配信を止め、既存の掲載は合意した期限までに外す | 古い投稿が残り続ける |
広告配信で使う場合は、配信先のプラットフォームの仕組みで、投稿者のアカウント名義で配信する形になるケースがあります。投稿者の名前やアカウントを広告に使うこと自体にも合意が必要なので、「アカウント名義での配信を含む」といった一文を入れておきます。文化庁の著作権制度の解説ページには、画面の案内に従って項目を入力し、契約書のひな型を作成できる「著作権契約書作成支援システム」が案内されています(文化庁 著作権制度の解説)。二次利用の条項を自作するときの項目出しの参考として使えます。
著作権や肖像権の確認そのものについては、写真・音楽・UGC二次利用の確認項目をまとめた記事を、あわせて参照してください。音楽や第三者の映り込みは、投稿者の合意だけでは解決しない場合があるためです。
報酬と支払期日は、フリーランス法の明示と60日の枠で設計する
報酬の取り決めとは、金額に加えて、何が報酬に含まれるか、いつ支払うか、振込手数料を誰が持つかを書くことで、相手が特定受託事業者に当たる場合は、支払期日は受け取った日から60日以内のできる限り短い期間内で定める必要があります。
公正取引委員会のフリーランス法のページでは、発注事業者が書面または電磁的方法で明示すべき取引条件として、給付の内容、報酬の額、支払期日、取引の相手の名称、業務委託をした日、給付や役務提供の日時・場所、検査を完了する日、報酬の支払方法に関する事項などが挙げられています。また、報酬は給付を受け取った日から数えて60日以内の、できる限り短い期間内で支払うことが求められるとされています(公正取引委員会 フリーランス法のページ)。役務の提供を受ける形の依頼では、起算日は個々の役務の提供を受けた日となり、複数回の提供がある場合はそれぞれから期日を設定する、という趣旨の説明がQ&Aにあります(公正取引委員会 フリーランス法Q&A)。
この内容は、相手がフリーランス法の対象になる場合の話です。発注書の実務としては、相手が対象かどうかの判断を保留にしたまま、すべての個人の発信者に対して、報酬額、支払期日、支払方法を書面かメッセージで明示する運用にそろえておくほうが、漏れが出にくくなります。対象かどうかの確認方法と、発注側の義務の全体像は、SNS運用代行の発注で企業が守るフリーランス法の記事で解説しています。
報酬の欄で書き漏らしやすいのは、次の四点です。第一に、報酬に含まれる範囲です。撮影費、編集費、二次利用の費用、交通費がどこまで含まれるのかを書きます。第二に、成果に連動する部分の定義です。クリック数や購入数に応じて報酬が変わる場合、数え方と計測の方法を書かないと、支払いの根拠が曖昧になります。第三に、支払日の決め方です。「検収後の翌月末払い」のように、日付で計算できる形にします。第四に、請求書の形式です。インボイス制度の対応状況によって処理が変わるため、事前に確認する流れを決めます。インボイス制度の扱いは免税事業者への外注とインボイス制度の記事で整理しています。
依頼先が資本金などの条件を満たす法人の場合は、フリーランス法とは別の法律が関係する可能性があります。その場合の考え方はSNS運用代行の外注と取適法の記事にあります。個人の発信者への依頼と、事務所を通す法人への依頼とで、確認する法律が変わる点は覚えておいてください。
中止・修正・削除は、発生条件と精算方法を対にして決める
中止・修正の取り決めとは、依頼を途中でやめる場合、公開済みの投稿を直す・消す場合に、どの条件で、誰が、どの費用を負担するかを事前に決めておくことです。
企業の都合で依頼を中止する場面は、商品の発売延期、広報方針の変更、社会情勢への配慮などで起きます。中止の時点で、すでに撮影や編集が進んでいれば、その分の費用が発生します。企業が自由に中止できるのか、中止する場合はどこまで精算するのか、を書いておかないと、中止の連絡と同時に費用の交渉が始まります。進捗の段階別に精算の考え方を書く方法が分かりやすく、たとえば「企画の合意前」「撮影前」「撮影後」「公開後」の四つに分けて、それぞれの精算を決めます。
フリーランス法の対象となる継続的な業務委託では、発注事業者に中途解除などの事前予告が求められる場合があります。公正取引委員会のページには、一定期間以上の業務委託について、解除の少なくとも30日前までに書面等で予告することを求める趣旨の記載があります(公正取引委員会 フリーランス法のページ)。対象となる委託期間や例外は条件によって異なるため、継続契約で依頼する場合は、事前に原文を確認してください。単発の依頼と、月次で継続する依頼とで、中止のルールを分けて書く方法もあります。
公開後の修正と削除の扱いも、この項目に含めます。公開後に商品情報の誤りや表示の不足が見つかったときに、企業が修正を依頼できるのか、削除を依頼できるのかを決めます。削除を依頼できる条件(法令違反の疑い、事実の誤り、重大なブランド毀損のおそれなど)を、書いておくと判断が速くなります。投稿者の側から見ても、「企業が一方的に削除を求められる」状態は不安につながるため、条件と対応の期限、削除にかかる費用の負担を対にして書くと、双方が納得しやすくなります。
運用代行会社に依頼している企業では、解約や契約を終えるときの条件を確認することも重要です。SNS運用代行の契約で注意する点の記事には、契約書で見るべき条項の一般的な整理があります。中止や解約の条項の読み方の参考になります。
炎上や問題が起きたときの連絡窓口と判断者を決めておく
問題発生時の取り決めとは、投稿へのクレーム、誤情報の指摘、炎上の兆しが出たときに、誰が連絡を受け、誰が投稿の一時非表示や訂正を判断するかを、平時に決めておくことです。
炎上は、起きてから決めていては間に合いません。投稿が拡散して批判が集まる場面では、数時間の遅れが状況を変えることがあります。そのため、発注書には、連絡窓口(企業側と投稿者側のそれぞれの担当者と連絡手段)、連絡できる時間帯、緊急時の連絡手段(メールだけでなく電話やチャットも含む)を書いておきます。夜間や休日の連絡が難しい場合は、その間の対応方針も決めておきます。
判断者の決め方も重要です。一時的に投稿を非表示にする判断を、投稿者だけでできるのか、企業の承諾が必要なのかを書きます。企業が承諾するまで投稿を残すと被害が広がり、投稿者が独断で削除すると経緯が追えなくなることがあるため、「緊急時は投稿者が一時非表示にしてよく、直後に企業へ連絡する」など、段階を分けた書き方が現実的です。訂正文や謝罪の文面を誰が作るか、誰名義で出すかも、この項目で決めておきます。
炎上の予防と、起きたときの社内対応は、企業SNS炎上を防ぐ対策と万が一の対応マニュアルで整理しています。契約書は、その対応マニュアルに外部の投稿者を組み込むための文書でもあります。投稿者が社内の人間ではない以上、マニュアルの通りに動いてもらうには、事前の合意が必要になるためです。
原因が企業の指示にある場合と、投稿者の独自の表現にある場合とで、責任の分け方が変わります。この区別を契約で完全に決めるのは難しいため、「原因の確認は双方で協力して行う」「費用負担は協議して決める」といった協議条項を置き、どちらの責任かを機械的に決めない書き方も、一つの選択肢です。ただし、協議条項だけでは争いを防げないので、削除や訂正の対応は、責任の所在と切り離して先に行う、と書いておくと実務が止まりません。
個人情報と秘密情報は、渡す情報を最小にして返却まで書く
個人情報と秘密情報の取り決めとは、依頼の過程で企業が投稿者に渡す情報(応募者の連絡先、未発表の商品情報など)と、投稿者から預かる情報の取り扱い、利用目的、返却・廃棄の方法を決めることです。
PR依頼では、個人情報を扱う場面が思いのほか多くあります。商品を送るための住所、キャンペーンの当選者への連絡、投稿者の本人確認や振込先の情報などです。個人情報保護法は個人情報取扱事業者の義務を定めており、取り扱いの根拠は法令で確認できます(e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律)。個人情報を委託先に渡す場合の安全管理措置の考え方は、SNS運用代行と個人情報保護法の記事で整理しています。
実務では、「渡す情報を最小にする」ことが最も効果的です。キャンペーンの応募者の連絡先を投稿者に渡す必要があるのか、企業側で当選者に連絡すれば足りるのではないか、という見直しをしてから、渡す情報の範囲を発注書に書きます。商品の発送を企業が行えば、投稿者に住所を預けてもらう範囲も絞れます。投稿者から預かる情報(振込先や本人確認の書類)は、利用目的を支払いの処理だけに限り、保管の期間を決めます。
秘密情報は、発売前の商品情報や、キャンペーンの詳細、企業の内部資料などです。公開日の前に情報が漏れると、発売の計画に影響します。秘密にする情報の範囲、いつまで秘密にするか(公開日まで、など)、投稿者が情報を共有してよい相手(マネージャー、編集者など)を書いておきます。契約終了後の資料の返却や削除についても書くと、情報の扱いが完結します。
投稿者の個人情報が、企業のアカウントやファイルに残る点も見落としやすい部分です。企業が、投稿者の本名や住所を社内のスプレッドシートに残す場合、その管理者と保管期間を社内で決めておきます。契約終了後の削除の手順を決めておけば、情報が残り続けて漏えいの原因になる事態を防げます。
条文例(仮の例)を叩き台に、自社の状況へ合わせる
条文例は、項目を漏れなく考えるための叩き台であり、そのまま契約書にするものではないため、自社の取引の実態に合わせて調整し、専門家の確認を受けてから使います。
次の表は、本記事で扱った項目に対応する条文の骨子を、仮の例として並べたものです。実在の契約や特定の会社の書式ではありません。法的助言ではなく、条項を考えるための材料として読んでください。金額、日数、期間は一例であり、実際の条件は案件ごとに決めます。
| 項目 | 仮の条文の骨子 | 調整のときに見る点 |
|---|---|---|
| 業務内容 | 受注者は、発注書に記載した媒体・本数・内容で、委託者の商品を紹介する投稿を制作し、公開する | 成果物を発注書の別紙で特定しているか |
| PR表示 | 受注者は、投稿が委託者からの依頼に基づく広告であることが読者に分かる表示を、委託者が指定する文言・位置で付ける | 文言と位置を具体的に書いたか |
| 事前確認 | 委託者は、公開前に、事実関係、法令への適合、権利の侵害の有無について確認し、必要な修正を依頼できる | 確認の範囲が広すぎないか |
| 二次利用 | 委託者は、発注書に記載した媒体・期間の範囲で、投稿を利用できる。範囲外の利用は別途協議する | 改変の可否と費用を書いたか |
| 報酬 | 委託者は、発注書記載の報酬を、記載した支払期日までに支払う | 期日が受け取った日から60日以内か |
| 中止・削除 | 委託者は、発注書記載の条件に該当する場合、投稿の修正または削除を依頼できる。費用の負担は発注書記載のとおりとする | 条件と費用を対にしたか |
| 問題発生時 | 両当事者は、投稿に関する指摘があったときは、窓口を通じて速やかに連絡し、必要な対応を協議する | 連絡手段と時間帯を書いたか |
| 個人情報・秘密 | 両当事者は、業務で知った個人情報と秘密情報を、業務の目的以外に使わず、終了後に返却または削除する | 渡す情報を最小にしたか |
この表の使い方は、一行ずつ「自社の状況ではどう変えるか」を考えることです。たとえば、二次利用で広告配信を想定しない依頼なら、媒体を自社のアカウントでの再掲に限定します。反対に、広告配信を中心に考える場合は、期間と追加費用の欄を厚くします。調整した結果は、社内の法務担当や顧問弁護士に見せ、自社の取引に合っているか確認してもらいます。
条文は短くしすぎても、長くしすぎても使いにくくなります。契約書本体は基本的な考え方を書き、変わりやすい条件(商品、日付、金額)は発注書に書く、という分担が運用しやすい形です。発注書の様式を一枚に固定し、案件ごとに数字と日付を埋めるだけで済むようにすると、担当者が変わっても品質がぶれません。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 契約書を作らず、発注書とメールのやり取りだけで進めても問題ありませんか。
- 小規模で単発の依頼なら、発注書と承諾の記録だけで足りる場合があります。ただし、二次利用や独占条件、継続的な依頼を含むときは、基本契約書で権利と責任の範囲を決めておいたほうが、後の交渉が簡単です。迷う場合は、依頼の規模と二次利用の有無で判断し、専門家に相談してください。
- Q2. インフルエンサーが自分の判断でPR表示を外してしまった場合、企業は何をすべきですか。
- 気づいた時点で、投稿者に表示の追加を依頼し、対応の期限を伝えます。あわせて、発注書に表示の文言と位置を書いていたか、確認の工程で表示を見ていたかを社内で振り返ります。表示を整える責任は企業側にあるため、発注書の記載と確認の手順を見直すことが再発防止になります。
- Q3. 商品を無償で送るだけで、投稿は任意にお願いする場合も契約は必要ですか。
- 投稿を依頼しない単なる贈呈と、投稿を依頼して提供する場合とでは、関係性が変わります。運用基準では、無償提供のうえで投稿を依頼しても、投稿者が自主的な意思で内容を決めている場合は事業者の表示にならない例が示されていますが、実態で判断されます。提供の趣旨と依頼の有無を記録に残し、判断に迷う場合は表示を付ける運用を検討してください。
- Q4. 投稿の削除を求められる期間や、投稿を残してほしい期間は、どう決めればよいですか。
- 企業が投稿を広告やキャンペーンに使う期間に合わせて、「公開から一定期間は投稿を残す」と決める方法があります。投稿者側にも、削除の依頼を受けた場合の対応期限があるほうが公平です。期間は案件の性質で変わるため、二次利用の期間と同じ表にまとめて管理すると、食い違いが起きにくくなります。
- Q5. 芸能事務所やプロダクションを通す場合、契約の相手は誰になりますか。
- 契約の当事者は、取引の形によって、投稿者本人、事務所、または両者となります。報酬の支払先、二次利用の許諾の権限、投稿の削除を依頼する窓口が誰かを、最初に確認します。投稿者本人の許諾が必要な内容は、事務所の合意だけで足りるのかも、契約前に確かめてください。
- Q6. 売上やクリックに応じて報酬が変わる成果報酬型の場合、何を追加で決めますか。
- 成果の定義(クリック、購入、会員登録のどれか)、計測の方法、集計の期間、報酬の算定式、支払日を決めます。成果報酬型でも、運用基準ではアフィリエイトプログラムを用いた表示が事業者の表示になる例が挙げられているため、PR表示の要否も別に検討してください。計測の結果を双方が確認できる仕組みも、書いておくとよい項目です。
まとめ:9項目を発注書の一枚に落として、社内で共有する
PR依頼の契約は、業務内容、期限、PR表示、事前確認、二次利用、報酬と支払期日、中止・修正、問題発生時、個人情報・秘密の9項目を、一枚の発注書に収めることから始められます。法令に関わる部分は、一次ページの文言を確認し、相手の事業形態や取引の実態で変わる点は断定せず、専門家に確認してもらう流れを組み込みます。
実務では、条項の細かさよりも、社内の担当者が同じ書式を使い、同じ基準で確認を回せることが品質を左右します。広報、マーケ、法務のどこが何を確認するかを決め、発注書を案件ごとに更新して保管してください。自社のSNS運用体制の整理や、外部の発信者との契約の見直しについて相談したい場合は、次の窓口からお問い合わせください。
