社員の個人SNS利用ルールは、「投稿を禁止する文書」として作ると、現場に守られないまま形だけが残ります。結論から書くと、作るべきなのは社員の私生活を縛る規則ではなく、会社の情報・取引先・顧客・会社の評価に関わる場面だけを切り出して線引きする文書です。この記事では、その線引きを三つの領域に分け、就業規則のどこに何を書くか、懲戒との関係をどう整理するか、自社の商品を個人アカウントで紹介してもらうときに何が必要になるかを、順に整理します。
企業の公式アカウントについては、運用ガイドラインや投稿前の確認体制を整える会社が増えています。一方で、社員が個人のアカウントで会社や仕事のことを書く場面は、公式アカウントの外側にあるため、ルールが空白のままになりがちです。入社直後の社員が職場の写真を何気なく載せる、退職前の社員が取引先の名前を出して愚痴を書く、広報担当ではない社員が自社商品の感想を書く。どれも悪意がなくても起こります。空白のまま放置すると、問題が起きてから「何を根拠に注意するのか」を探すことになり、本人にも会社にも不利益が生じます。
先に、この記事で扱う範囲を決めておきます。扱うのは、社員(正社員のほか、契約社員やアルバイトなど会社の指揮のもとで働く人)が個人名義のアカウントで行う投稿のうち、会社に関わる部分です。会社が運営する公式アカウントの権限や運用はアカウント権限の管理と交代時の引き継ぎで、炎上を防ぐための平時の備えは炎上対策とリスク管理の基本で扱っています。本記事はその間にある「社員個人のアカウント」の空白を埋める位置づけです。
なお、ここでの説明は一般的な整理であり、個別の就業規則や懲戒処分の有効性は、事案ごとの事情で判断が分かれます。実際に規程を改定する場合は、社会保険労務士や弁護士など、労務の専門家に確認してから進めてください。法令や公的ガイドラインに触れる箇所は、同じ段落に一次ページへのリンクを置いています。
社員の個人SNS利用ルールは「禁止」ではなく「会社に関わる場面の線引き」として作る
社員の個人SNS利用ルールとは、社員が個人名義のアカウントで投稿する際に、会社の秘密、取引先や顧客の情報、会社の名誉や信用に関わる内容をどこまで扱ってよいかを、あらかじめ文書で示しておく社内の取り決めを指します。
ルールづくりの出発点で最も多い失敗は、「個人SNSは原則禁止」「会社の話題は一切書かない」といった広い禁止から入ることです。広い禁止は、守れないルールになります。社員にとって個人のアカウントは私生活の場であり、趣味や家族の話題まで会社が管理しようとすれば、反発を生み、結局は抜け道を探す動きにつながります。また、私生活の領域にまで広く制限をかけると、規程の合理性そのものが問われかねません。
そこで、禁止の範囲を最小にし、そのかわりに「なぜこの線を引くのか」を説明できる形にします。線を引く理由は、大きく三つに整理できます。一つ目は、会社や取引先の情報が外に出ると、損害が会社の外にも広がること。二つ目は、社員の発言が会社の見解として受け取られる場合があること。三つ目は、自社の商品を宣伝する投稿が、第三者の感想に見える形で出ると、表示の問題になりうることです。理由が三つに集約されると、細かい例外が出てきたときも、この三つのどれに当たるかで判断できます。
仮の例として、ある製造業の会社が最初に作った案を挙げます(実在の会社の例ではなく、考え方を示すための架空の設定です)。最初の案は「業務に関する投稿を禁止する」の一文だけでした。しかしこれでは、「今日の出張は新幹線が遅れた」という投稿まで対象になるのか、新入社員の「入社しました」の投稿はどうなのか、という質問が総務に集中します。そこで改訂案では、禁止ではなく「載せてはいけない情報の種類」を列挙し、残りは本人の判断に委ねる形に変えました。出張の話題や入社の報告は、情報の種類に当たらない限り自由です。この改訂により、総務への質問は「この種類に当たるか」という具体的な内容に絞られます。
この線引きの考え方は、公式アカウント側で作る運用ガイドラインの項目設計とも共通します。公式側は「会社として発信するときの基準」、本記事のルールは「社員個人が発信するときに会社が求める配慮」という違いで、片方だけでは空白が残ります。
ルール化の前に、私的な投稿・会社に関わる投稿・会社が依頼する投稿の三領域を分ける
三領域の区別とは、社員の個人アカウントの投稿を、会社と無関係な私的投稿、会社や仕事に触れる投稿、会社が依頼または期待して行う投稿の三つに分け、領域ごとに会社が関与できる範囲を変える整理の方法を指します。
個人SNSの話題を一括りにすると、議論が噛み合いません。「社員の投稿を会社が管理する」と言ったとき、ある人は私生活の投稿を想像し、別の人は自社商品の紹介投稿を想像しています。まず三つの領域を分け、それぞれで会社が何を求められるか、何を求めてはいけないかを確認します。
| 領域 | 投稿の例 | 会社が定めてよい内容 | 会社が踏み込みすぎやすい点 |
|---|---|---|---|
| 私的な投稿 | 趣味、旅行、家族、日常の出来事 | 原則として規程の対象外。ただし職場や取引先が映り込む場合の配慮 | 私生活の話題そのものの制限や、投稿内容の事前申告 |
| 会社や仕事に触れる投稿 | 職場の様子、仕事の感想、勤務先の名称の言及 | 秘密、取引先や顧客の情報、会社の名誉信用に関わる内容の扱い | 会社への意見や感想の一律禁止 |
| 会社が依頼・期待する投稿 | 自社商品の紹介、採用への協力、イベントの告知 | 依頼の方法、表示の要否、投稿は任意であること | 投稿の義務化や、個人のアカウントを広報の手段として固定すること |
この表で大事なのは、第一領域には原則として踏み込まないと決めておく点です。会社が関与できるのは、第二領域の「情報の種類」と、第三領域の「依頼の方法と表示」に絞られます。第二領域も、会社への批判的な意見を一律に禁じるのではなく、事実に基づかない誹謗中傷や、守秘義務に反する内容に限定して考えます。就業規則にどう書くかは次の章で見ますが、厚生労働省のモデル就業規則も、懲戒解雇の事由として挙げているのは、会社に対する正当な理由のない誹謗中傷などで会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為といった、限定的な書きぶりです。
仮の例として、小売業の会社の三領域の判断を見ます。休日に家族と出かけた写真を載せる投稿は第一領域で、会社は関与しません。店舗で撮ったバックヤードの写真に在庫の棚と取引先の納品伝票が写り込んでいれば、第二領域の問題になります。店長から頼まれて新商品の感想を書くなら、第三領域に入り、依頼の方法と表示を決めておく必要があります。同じ人の投稿でも、写っているものと頼まれ方で領域が変わる点を、社内説明で最初に共有しておくと、後の議論が進みます。
就業規則のどこに書くか:遵守事項と懲戒の事由の関係をモデル就業規則で確認する
就業規則への位置づけとは、社員の個人SNS利用に関する取り決めを、遵守事項などの服務規律の条文と、懲戒の事由の条文のどちらにどう反映させるかを決める作業であり、書く場所によって社員への周知の仕方と処分の根拠が変わります。
個人SNS利用ルールを就業規則に取り込むとき、最初に迷うのが「どこに書くか」です。厚生労働省労働基準局監督課が公表しているモデル就業規則(令和7年12月版)は、書き方の目安として参照できます。同資料の解説では、服務規律や遵守事項は就業規則に定める義務のある事項ではないものの、職場の秩序維持に大きな役割を果たすため、会社として労働者に守らせたい事項を定めるよう促されています。ここから、個人SNSの取り決めも、まず遵守事項の位置づけで整理するのが自然です。
次に、懲戒の事由との関係です。同じモデル就業規則では、懲戒解雇の事由の例として、私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷などで会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき、また、正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、または業務の正常な運営を阻害したとき、といった事由が挙げられています。SNSという媒体を理由に新しい懲戒事由を作る必要はなく、既存の事由が個人SNSの投稿にも当てはまりうる、という整理が基本になります。
実務では、次の二つの文書を使い分けると運用しやすくなります。就業規則の本体には、秘密保持や名誉信用に関する一般的な条文を置き、SNSに特化した詳細は別規程またはガイドラインとして切り出します。詳細を本体に書き込むと、プラットフォームの機能が変わるたびに就業規則を改定する手間が生じ、届出や周知の負担が大きくなるからです。別規程の位置づけは、就業規則の中で「別に定める」と委任しておく書き方になります。委任の書き方が不明確だと、別規程が処分の根拠として弱くなるため、ここは専門家に確認すべき箇所です。
仮の例として、先のモデル就業規則の考え方を踏まえ、条文の配置を次のように整理できます。遵守事項には「業務上の秘密と取引先・顧客の情報を、いかなる媒体でも外部に開示しない」「会社の名誉信用を損なう行為をしない」という媒体を問わない一般条文を置きます。SNS利用ガイドラインには、載せてはいけない情報の種類、所属の表示の考え方、自社商品を紹介するときの手順を記します。媒体を問わない条文があれば、新しいSNSが登場しても、条文の改定は不要です。
懲戒との関係を整理する:規定がない事由では処分できず、合理性がなければ無効になりうる
懲戒と個人SNSの関係とは、会社が社員の投稿を理由に処分を検討する際、就業規則に定めた事由に当たるか、処分が行為の内容や状況に照らして相当かが、法律上の有効性を左右するという関係を指します。
ルールを作ると、「破ったら処分できるのか」という点に関心が集まります。ここは、期待を持たせすぎないことが大切です。前述のモデル就業規則の解説では、最高裁判決を引いて、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないと説明されています。さらに、就業規則に懲戒規定を設ける前の行為にさかのぼって懲戒処分をすることや、一つの事由に当たる行為に対して複数回の懲戒処分を行うことはできないとも記されています。つまり、問題の投稿が起きてから慌てて規程を作っても、その投稿には使えません。
加えて、労働契約法第15条は、使用者が労働者を懲戒できる場合でも、懲戒が行為の性質や態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、懲戒権の濫用として無効とすると定めています(労働契約法(e-Gov法令検索))。同法第16条には、解雇についても同様の定めがあります。個人アカウントの投稿は、投稿の内容、拡散の範囲、会社への影響、本人の認識、過去の類似事例への対応など、考慮すべき事情が多様です。処分を決めるときは、規程の文言に当たるかだけでなく、これらの事情と他の社員への過去の対応との公平性を見る必要があります。
この点から、ルール設計の方向が見えてきます。懲戒の存在を前面に出して抑止するより、事前の周知と、問題が起きたときの対応手順を整えるほうが、現実には機能します。投稿が見つかった場合の初動は、処分の検討ではなく、まず削除の依頼と事実確認、影響範囲の把握に置くと、判断の順序を誤りません。
仮の例として、事実確認の流れを示します。段階1は、投稿の保存です。投稿の画面と投稿日時、投稿者のアカウント名を記録します。段階2は、本人への聞き取りです。意図と投稿に至った経緯、他に同様の投稿がないかを確認します。段階3は、影響の確認です。取引先や顧客の情報が含まれていないか、拡散の程度はどうかを見ます。段階4は、対応の判断です。削除の依頼、注意、必要に応じた専門家への相談を、段階3の内容に応じて選びます。懲戒は、この判断の最後に残る選択肢にとどめます。
載せてはいけない情報の種類を、判断に迷わない粒度で列挙する
載せてはいけない情報の種類とは、個人SNSの投稿で社員が扱ってはならない会社の内部情報や取引先、顧客に関する情報を、具体的な分類として文書に書き出したものを指します。
ルールの中心になるのは、この列挙です。粒度が粗いと「これは含まれますか」という質問が増え、細かすぎると読まれません。判断に迷わない粒度は、「情報の種類」と「具体的なものの例」を組にして示すことです。次の表は、社内で最初に議論の叩き台にしやすい分類です。
| 情報の種類 | 具体的なものの例 | 投稿に出てしまう典型的な場面 |
|---|---|---|
| 未公表の事業情報 | 新商品の発売前の情報、人事異動、業績の見通し | 職場の机の上の資料や画面が写り込む写真 |
| 取引先に関する情報 | 取引先の名称、契約の内容、担当者の名前 | 打ち合わせ後の感想や、納品物の写真 |
| 顧客に関する情報 | 来店した顧客の様子、問い合わせの内容、顔写真 | 接客の愚痴や、店内の様子を撮った写真 |
| 社内の様子が分かる情報 | 入館証、座席表、セキュリティの仕組み、位置情報 | 職場の自撮りや、位置情報付きの投稿 |
| 他の社員に関する情報 | 同僚の顔、言動、評価、私生活 | 飲み会や社内イベントの写真 |
この表の列は、それぞれ別の問いに答えています。「情報の種類」は何を守るのかを、「具体的なものの例」はどこまでが対象かを、「典型的な場面」はどの状況で起きやすいかを示します。特に、場面の列は、研修で実際の例を挙げるときの材料になります。多くの漏えいは、秘密を書こうとして起きるのではなく、写真や画面の端に偶然映り込む形で起きるからです。
総務省の国民のためのサイバーセキュリティサイトのSNS使用時の注意点には、業務でSNSを使う際の注意として、企業や組織のブランドイメージを損なう発言をしないこと、アカウント情報を適切に管理すること、サービスの規約を遵守すること、サービスが利用できないときの運用を決めておくこと、著作権や肖像権の侵害に当たらないようにすることが挙げられています。個人としてのSNS利用についても、不用意な発言に十分注意を払う必要があるとされています。ただし、同ページが挙げているのは業務で使う場合の注意点が中心で、社員の私的な利用を会社がどう管理するかまでは書かれていません。そこで、私的な利用の部分は、会社が何を守りたいかを自社で言語化する必要があります。
顧客や他の社員の写真の扱いについては、個人情報の取扱いとも関係します。個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドライン(通則編)は、事業者が個人情報を取り扱う際のルールを示しており、従業者に取り扱わせる際の監督も含まれます。社員が業務で知った顧客の情報を私的な投稿に使うことは、会社の管理体制の問題にもなりうるため、列挙には顧客の情報を含めておきます。個人情報を含む委託や外部の運用の観点は、運用の委託と個人情報の安全管理でも整理しています。
仮の例として、飲食業の会社の列挙を示します。「営業中の店内で、顧客の顔が判別できる写真は、本人の了承があっても個人アカウントに載せない」という記述は、判断に迷いません。一方、「顧客のプライバシーに配慮する」だけでは、何を配慮すればよいかが読み手に伝わりません。禁止事項は、読んだ人が投稿ボタンを押す前に判断できる文であることが条件です。
うっかり起きる投稿の事故、つまり悪意や秘密を書く意図がなくても写真や動画、音楽、位置情報などを通じて情報が外に出てしまう事態もあります。情報の種類の列挙に加えて、投稿の手段そのものに潜むリスクも、ルールに含めておくと実効性が上がります。典型的なのは、写真と動画、音楽、位置情報の三つです。
写真や動画では、背景に映り込んだ人や資料、画面が問題になります。投稿前に、写真の端や反射、画面に映る文字を見直す習慣を、ルールの中に一文入れておきます。音楽や他人が撮影した写真・動画を使う場合は、著作権や肖像権の問題が生じます。企業の公式投稿における扱いは写真・音楽・二次利用の権利確認で整理しています。社員の個人投稿は、個人利用として扱われる場面もありますが、勤務先の名称や業務を前面に出した投稿では、利用の態様によって扱いが変わりえます。判断が難しい場合は、自社の権利に詳しい専門家に確認してください。
位置情報は見落とされやすい項目です。職場や出張先の位置が投稿に付くと、取引先の所在や社内の動きが外から推測できる状態になります。位置情報の付与は、各サービスの設定で制御できるため、ルールには「職場や取引先の所在が分かる位置情報は付けない」という文を入れ、設定の確認方法を研修で扱います。サービスごとの画面名や設定の位置は変更されるため、規程本体に画面の操作手順を書き込むのは避け、公式ヘルプへの案内にとどめます。
仮の例として、社内イベントの写真を挙げます。イベント会場で撮った集合写真を、参加した社員が個人アカウントに載せる場面を考えます。この写真には他の社員の顔が写り、背景のスクリーンに未公表の取り組みの名称が出ているかもしれません。このとき、投稿前に確認する点は二つです。写っている人の了承が取れているか、背景の資料に未公表の情報がないか。この二つを、イベントの案内メールの末尾に一文で添えておくと、当日の判断が楽になります。
自社の商品を社員が個人アカウントで紹介するときは、ステルスマーケティング規制を確認する
ステルスマーケティング規制とは、広告であるにもかかわらず一般消費者が広告であることを分からない表示を、景品表示法上の不当表示として規制する制度であり、社員の個人投稿が事業者の表示とみなされる場合にも関係します。
自社商品を社員が個人アカウントで紹介する場面は、個人SNSルールのなかで最も法的な論点が多い領域です。消費者庁のステルスマーケティング規制に関するページによれば、令和5年10月1日から、広告であって一般消費者が広告であることを分からないものが、景品表示法違反となります。規制の対象は広告主である事業者で、広告の依頼を受けて投稿する第三者ではないと説明されています。
社員の個人アカウントについては、消費者庁のステルスマーケティングに関するQ&Aで、従業員の個人アカウントでの投稿が取り上げられています。同Q&Aの説明では、従業員の個人投稿が直ちに違反になるわけではない一方で、販売や開発に係る役員、管理職、担当チームの一員等が、自社商品の販売を促進するための表示を行う場合は、事業者の表示に当たると考えられるとされており、その場合は広告であることが分かる表示が必要になる、という整理が示されています。したがって、ルールには「自社商品について個人アカウントで投稿する場合は、事前に所定の窓口へ連絡し、表示の要否を確認する」という手順を置くのが現実的です。
どこまでが事業者の表示に当たるかは、投稿者の地位、立場、権限、担当業務、表示の目的など、実態によって変わります。ここで条文や判断基準を自社で解釈しきるのは難しいため、判断の窓口を一つに決めておきます。判断の窓口は、広報や法務、コンプライアンス担当のいずれかに置き、社員に「迷ったら聞く」という経路を作っておきます。詳しい整理は広告表示の要否とPR表記の社内チェックで扱っています。
仮の例として、新商品の発売時の対応を示します。発売の数日前に、広報が社員向けに「新商品について個人で投稿したい人は、投稿前に広報へ連絡してください。表示が必要な場合は広報が文言を案内します」と周知します。投稿を希望した社員から連絡を受けた広報は、投稿者の担当業務と依頼の有無を確認し、広告である旨の表示の要否を判断して、記録を残します。投稿するかどうかは社員の任意であり、断った社員に不利益がないことも、周知の文面に明記します。
社員に投稿をお願いする場合は、任意性・表示・記録の三点を設計する
社員への投稿依頼の設計とは、会社が社員に自社の情報を個人アカウントで発信してほしいと依頼する際に、投稿の任意性、広告であることの表示、依頼の記録をあらかじめ取り決めておく運用の方法を指します。
採用の広報や商品の認知のために、社員の個人投稿に期待する会社は少なくありません。ただし、依頼の仕方によっては、強制や黙示の圧力になり、社員との関係を損ないます。依頼を設計するうえで押さえる点は三つです。
一つ目は任意性です。投稿は任意であり、断っても評価や処遇に影響しないことを、依頼の文面に書きます。口頭で頼むだけでは、上司からの依頼が事実上の指示になりやすいため、文書で依頼し、断る方法も示しておきます。二つ目は表示です。依頼を受けて社員が自社商品を紹介する場合に、広告である旨の表示が必要かを、前章の窓口で確認します。広告であることが分かる表示の具体例は、消費者庁の運用基準に整理されているため、広報の担当者は一度目を通しておくと判断が速くなります。三つ目は記録です。誰にいつ何を依頼し、投稿はどのように確認したかを、社内に残します。記録は、後から表示の要否を説明する必要が生じたときの根拠になります。
この三つを守る場合でも、個人アカウントを広報の手段として固定するのは避けるほうが無難です。社員が退職した後も、そのアカウントに会社の紹介が残り続けるためです。会社が継続して発信する内容は、公式アカウントに置き、社員の個人投稿は補助にとどめる設計にしておくと、人の入れ替わりによる影響を小さくできます。社内でどこまで自前で運用するかの考え方は、社内運用への切り替えの進め方と併せて検討すると整理しやすくなります。
仮の例として、依頼文の構成を示します。冒頭に目的、次に「投稿は任意であり、投稿しなくても評価に影響しない」旨、続けて投稿してよい範囲(商品の公式画像と公表済みの情報の範囲)、表示が必要になる場合の連絡先、最後に問い合わせ窓口を記載します。この順序にすると、読み手は最初の数行で、自分に義務がないことを理解できます。
所属の明示と発言の責任を分ける:プロフィールの書き方と免責表示の限界
所属の明示とは、個人アカウントのプロフィールや投稿の中で、投稿者が勤務先の社員であることを示すかどうかの取り扱いであり、発言が会社の見解と受け取られる程度に影響します。
個人アカウントのプロフィールに勤務先を書く社員は多く、会社名を出すことで信頼を得られる場面もあります。一方で、所属が明示されたアカウントの発言は、読み手には会社の関係者の発言として映ります。そこで、ルールには所属を書くか書かないかを強制するのではなく、書く場合の注意を定めておきます。
よく使われる「投稿は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません」といった免責の表示は、読み手の誤解を減らす効果はありますが、万能ではありません。免責の表示があっても、秘密の漏えいや、他者への誹謗中傷がなかったことになるわけではないからです。また、前章で見たとおり、販売や開発に携わる立場の社員が自社商品を紹介すれば、免責の表示とは別に、広告表示の要否が問題になりえます。免責の表示は、発言の位置づけを示す補助であり、投稿の責任を免れる手段ではないという点を、研修で正確に伝えます。
仮の例として、プロフィールの書き方の方針を示します。「勤務先を書くかどうかは任意。書く場合は、会社の公式の立場ではないことを、プロフィールの文面で示すことを推奨する。書かない場合も、投稿内容に関するルールは同じように適用される」とします。所属を書かない社員にも情報の扱いのルールが同じように及ぶことを、はっきり書いておくと、「名前を出していないから関係ない」という誤解を防げます。
また、退職が決まった社員や退職後の元社員の投稿は、別の検討が必要です。退職後も、在職中に知った秘密を守る義務は、契約や就業規則の定めによって残る場合があります。退職時に、秘密保持の確認と、会社に関する投稿の扱いを説明する場を設けておくと、トラブルの予防になります。
誹謗中傷や炎上を受けた社員を守る相談窓口と初動の流れを決めておく
社員を守る相談窓口とは、個人アカウントの投稿をきっかけに社員が誹謗中傷や過剰な批判を受けたときに、社員が会社へ相談でき、会社が事実確認と必要な対応を一緒に進められるように設けた連絡先と対応手順を指します。
個人SNSのルールというと、社員を取り締まる側の視点になりがちですが、社員を守る側の視点も欠かせません。会社の関係者であることが知られると、本人の投稿が会社の評価と結びつけて批判を受けることがあります。そのとき、相談先がなければ、本人が一人で抱え込み、不用意な反論で状況が悪化します。ルールの中に「困ったときの相談先」を入れておくと、社員がルールを味方として受け止めやすくなります。
被害を受けた場合の相談先として、総務省の支援事業である違法・有害情報相談センターがあります。同センターは、インターネット上の違法・有害情報に関する相談を受け付け、削除依頼の方法などについて助言を行う窓口として案内されています(違法・有害情報相談センター(総務省))。社内の相談窓口と、こうした外部の窓口の両方を、社員に周知しておきます。
初動の流れは、公式アカウントの炎上対応と共通する部分が多くあります。まず状況を記録し、次に社内の担当者へ共有し、本人に反論や削除を急がせず、対応方針を決める順序です。コメントやメッセージへの対応基準は返信の基準と担当の決め方が参考になります。個人アカウントの場合は、会社が代わりに返信するのではなく、本人が対応するか、投稿の削除や非公開にするかを本人と相談して決める点が異なります。
仮の例として、相談から対応までの連絡経路を示します。社員が相談窓口へ連絡し、窓口が状況を記録して、広報と人事に共有します。本人には、投稿への追加の発信を控えるよう案内します。必要に応じて、サービス提供者への報告や、外部の相談窓口の利用を、本人の意向を確認しながら進めます。会社が社員を守る姿勢を、規程の文面と運用の双方で示すことが、社員の自発的な相談を引き出します。
ルールを社員に届ける:説明会・同意・既存規程の変更手続きの順序
ルールの周知とは、作成した個人SNS利用ルールを社員に説明し、理解を得たうえで、就業規則の変更や別規程の制定に必要な手続きを踏んで、社内で有効に機能する状態にすることを指します。
ルールは作っただけでは機能しません。社員に知られ、納得され、必要な手続きを経て初めて、運用の根拠になります。ここでは、順序を間違えないことが大切です。
就業規則の変更を伴う場合、労働契約法第10条は、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、変更が労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的であるときに、変更後の就業規則に定める労働条件が労働契約の内容になると定めています(労働契約法(e-Gov法令検索))。周知と合理性が要件に含まれているため、就業規則に反映する場合は、説明の機会を設けて意見を聞き、理由を記録に残す流れが望ましいといえます。就業規則の届出や意見聴取の具体的な手続きは、事業場の規模や労働組合の有無で異なるため、専門家に確認してください。
周知の進め方は、次の順序が現実的です。段階1は、作成の目的を伝えることです。社員を縛るためではなく、会社と社員を守るためであることを、最初に明言します。段階2は、案を示して意見を聞くことです。現場の社員は、実際に起きやすい投稿の場面を知っているため、案の抜けや現実との差を指摘してくれます。段階3は、規程を確定し、説明することです。変更点と、その理由を、文書と口頭の双方で伝えます。段階4は、研修で具体例を扱うことです。実際の投稿を想定した例で、判断の練習をします。
新入社員には、入社時の説明に含めます。入社後すぐは、職場の写真を投稿したくなる時期でもあります。この時期に「何を載せてよいか」を具体例で伝えると、事故を防げます。外部の運用代行会社やフリーランスに業務を委託する場合は、委託先の人の個人投稿も契約で扱いを決める必要があります。契約時の確認項目は運用代行の契約で確認する注意点が参考になります。
仮の例として、周知文書の構成を示します。冒頭に目的、次に載せてはいけない情報の種類(前述の分類表)、判断に迷ったときの連絡先、投稿の依頼をする場合の約束事、最後に困ったときの相談窓口を置きます。文書は、読み手が一度で全体を把握できる分量にとどめ、詳細は別添の資料に回します。
運用を続けるための点検項目と見直しのタイミングを決める
運用の点検とは、作成した個人SNS利用ルールが実際に守られ、現状に合っているかを定期的に確認し、必要に応じて内容や周知の方法を見直す活動を指します。
ルールは、作った時点が最も新しく、時間とともに現場と離れていきます。新しいサービスの登場、社員の働き方の変化、法令やガイドラインの改定、社内で起きた事例などによって、見直しの必要が生じます。点検を仕組みにしておくと、見直しが特定の担当者の気づきに依存しません。次の表は、点検の観点と確認の方法の整理です。
| 点検の観点 | 確認する方法 | 見直しにつなげる判断 |
|---|---|---|
| ルールが社員に知られているか | 研修後の理解度の確認、問い合わせの内容の傾向 | 周知の方法や研修の内容の変更 |
| 列挙した情報の種類が現場に合っているか | 相談窓口に寄せられた事例の整理 | 分類の追加や表現の修正 |
| 依頼の記録が残っているか | 投稿依頼と表示の判断の記録の確認 | 記録の様式や保管場所の見直し |
| 相談窓口が使われているか | 相談の件数と対応の経過の確認 | 窓口の周知や担当者の見直し |
| 法令やガイドラインの変更があったか | 消費者庁や厚生労働省などの公式ページの確認 | 規程と周知文書の改定 |
表の最後の行にある公式ページの確認は、担当者を決めて、定期的に行います。特に、ステルスマーケティング規制や個人情報保護法のガイドラインは、運用基準やQ&Aが更新されることがあるため、改定の有無を確認する習慣を持つと、規程が古くなるのを防げます。
点検の結果を、経営層や担当部署に報告する場を決めておくことも重要です。報告の観点は、実際に起きた事例、相談窓口の利用状況、規程の見直しの要否です。内部不正や情報漏えいの対策を体系的に整理した資料として、IPAの組織における内部不正防止ガイドラインがあります。同ガイドラインは改訂版第5版が公表され、十の観点と三十三の対策項目で内部不正の防止策を整理しています。個人SNSの投稿は内部不正対策そのものではありませんが、情報管理の全体像の中で位置づけを確認する材料になります。
仮の例として、見直しのきっかけを整理します。相談窓口に似た相談が続いたら、その内容が規程の盲点を示している可能性があります。また、新しい投稿機能が普及して、社内の撮影や配信の場面が増えた場合は、載せてはいけない情報の分類に、その場面を足すかどうかを検討します。見直しの記録を残しておくと、規程の変遷を後から説明できます。
ルール文書の完成例(仮の例):項目の順序と書きぶりを確認する
ルール文書の完成例とは、これまでの整理を一つの文書にまとめたときの項目の並びと文章の書きぶりを、仮の設定で示した見本を指します。
ここまでの内容を、一つの文書にまとめた仮の例を示します。実在する会社の文書ではなく、項目の順序と書きぶりを確認するための見本です。自社に当てはめる際は、業種、規模、扱う情報の性質、既存の就業規則の構成に合わせて、専門家と内容を確認してください。
最初の項目は「目的」です。「この文書は、社員が個人のアカウントでSNSを利用する際に、会社の情報と取引先・顧客・他の社員を守り、社員自身が不利益を受けないようにするために定める。私生活での自由な利用を妨げるものではない」と書きます。目的に私生活の自由を明記しておくと、社員の受け止め方が変わります。
二番目の項目は「対象となる投稿」です。「会社、業務、取引先、顧客、他の社員に触れる投稿を対象とし、それ以外の私的な投稿は対象としない」と書きます。三領域の区別を、ここで文書に反映します。三番目の項目は「載せてはいけない情報」で、前述の分類表を、社内の用語で書き換えて載せます。四番目は「写真・動画・位置情報の扱い」で、映り込みの確認と、位置情報の付与の注意を書きます。
五番目の項目は「自社商品の紹介」です。「自社の商品やサービスについて個人アカウントで投稿する場合は、事前に広報へ連絡する。広告であることの表示が必要な場合は、広報の案内に従う。投稿は任意であり、投稿しないことによる不利益は生じない」と書きます。六番目は「所属の表示」で、書くか書かないかは任意であること、書く場合の注意を示します。七番目は「困ったときの相談先」で、窓口の連絡先と、外部の相談窓口の案内を載せます。
八番目の項目は「規程との関係」です。懲戒の有効性は労働契約法第15条の枠内で判断されるため(労働契約法(e-Gov法令検索))、「この文書は、自社の就業規則に基づくガイドラインである。違反が疑われる場合は、事実確認を行い、本人の意見を聞いたうえで対応を判断する」と書き、処分を自動的に導く記述にはしません。九番目は「見直し」で、定期的に内容を点検し、改定した場合は社員に周知することを書きます。この九つの項目で、一枚から数枚の文書に収まります。
文書ができあがったら、実際に読む人の立場で試し読みしてもらいます。入社して間もない社員、営業の社員、店舗で接客する社員など、立場の異なる数人に読んでもらい、分かりにくい箇所や現実と合わない箇所を指摘してもらいます。この試し読みを経た文書は、公開後の問い合わせが減り、現場での使われ方が変わります。SNS運用の体制づくり全体について相談したい場合は、記事末尾の窓口をご利用ください。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 社員の個人SNSを会社がチェックしてもよいですか。
- 個人のアカウントを会社が定期的に監視することは、社員のプライバシーとの関係で慎重な検討が必要です。ルールの趣旨は、すべての投稿を確認することではなく、会社に関わる情報の扱いを事前に示すことにあります。問題が疑われる投稿が見つかった場合の対応手順を決めておき、監視の範囲を広げる場合は、目的と方法を事前に説明して専門家に確認してください。
- Q2. 個人アカウントで会社の悪口を書いた社員を、すぐに処分できますか。
- すぐに処分できるとは限りません。厚生労働省のモデル就業規則の解説では、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないとされ、労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない懲戒を無効としています。投稿の内容、影響、本人の認識などを確認し、まず削除の依頼や注意など段階的な対応を検討するのが一般的な考え方です。
- Q3. 自社商品の感想を、社員が個人アカウントで書くときは広告表示が必要ですか。
- 投稿者の地位、立場、担当業務や表示の目的など、実態によって変わります。消費者庁のQ&Aでは、販売や開発に係る役員、管理職、担当チームの一員等が販売を促進するために紹介する場合などは事業者の表示に当たると考えられ、その場合は広告であることが分かる表示が必要とされています。判断に迷う場合は、広報や法務の窓口へ事前に確認する手順をルールに組み込んでおきます。
- Q4. アルバイトや派遣の人にも同じルールを適用できますか。
- 雇用形態によって、適用される就業規則や契約の内容が異なります。アルバイトには就業規則や契約書、派遣社員には派遣元と派遣先の取り決めがそれぞれ関係します。同じガイドラインを共有する場合でも、法的な位置づけは別に整理が必要なため、労務の専門家に確認してください。
- Q5. 匿名アカウントなら、会社の話題を書いても問題になりませんか。
- 匿名であっても、秘密の漏えいや誹謗中傷の問題はなくなりません。投稿の内容から個人や会社が特定される場合もあります。ルールは、実名か匿名かにかかわらず、載せてはいけない情報の種類として適用する形にしておくと、抜け道を作りません。
- Q6. ルールを作ったのに、社員が守ってくれません。何から見直せばよいですか。
- まず、ルールが社員に届いているかを確認します。多くの場合、原因は規程の内容より、周知の不足や、禁止の範囲が広すぎて現実に合わないことにあります。相談窓口に寄せられた事例や、研修での質問を整理し、載せてはいけない情報の分類と、判断に迷ったときの連絡先を見直してください。
まとめ:個人SNSのルールは、会社と社員の双方を守る線引きとして設計する
社員の個人SNS利用ルールは、投稿を広く禁じる文書ではなく、会社に関わる場面を切り出して線を引く文書として作ります。私的な投稿、会社に触れる投稿、会社が依頼する投稿の三領域を分け、会社が関与するのは情報の種類と依頼の方法・表示に絞ります。
就業規則への位置づけは、媒体を問わない一般条文を本体に置き、SNSに特化した詳細は別規程やガイドラインに切り出す形が運用しやすくなります。懲戒は、規定がない事由ではできず、合理性が問われるため、処分を前面に出すより、事前の周知と初動の手順を整えることが実効性につながります。自社商品の紹介は、消費者庁が示す整理を踏まえ、事前に窓口へ確認する手順を用意します。
最後に、ルールは作ったあとが本番です。周知、相談窓口、定期的な点検を回し続けることで、現場に根づきます。社内で運用体制を整える際の考え方は、投稿前の確認体制の作り方とあわせて検討してください。体制づくりに関する相談は、下記の窓口から受け付けています。
